禅宗のお坊さんの修行道場のことを「僧堂(そうどう)」といいます。
ここで数年間住み込みで修行生活をし、お坊さんとしての訓練を受けるのです。
職業訓練というのが適切かわかりませんが、いわばお坊さんの養成校です。
お坊さんの学校みたいなものなら、入学試験というか、入門試験があるのでしょうか??
あります。
かなり風変わりな試験ですが、確かにあります。
試験といっても、紙も鉛筆もいりません。
必要なのは、自分の身一つ。
そして忍耐力です。
「庭詰め」「旦過詰め」
これが臨済宗僧堂の登竜門です。
「にわづめ」「たんがづめ」と読みます。
臨済宗の全ての僧堂で行われているこの入門試験、僕もやる前は不安で眠れませんでした。
でも、終わった後の感想は、
「まあまあ、なんとかなるもんだな。」
でした。
この「庭詰め」「旦過詰め」とは、いったいどんな入門試験なのか。
徹底解説していきます!
玄関で半土下座!2日間の庭詰め
追い返されても居座り続ける!
最初に、僧堂用語を簡単に説明します。
- 雲水(うんすい)・・・修行僧のこと
- 新到(しんとう)・・・新人雲水のこと
- 掛搭(かとう)・・・僧堂に入門すること
新人雲水は、僧堂にやってきたら、まず玄関の式台に掛搭願書を置き、手をついてそこに頭をつけ、
「たの~みま~しょ~~~~!!!」
と大声で叫びます。
↓こんな感じです。

すると、奥から先輩雲水が出てきて、
「声が小せぇ!」
みたいなことを怒鳴ります。
もう一度、さらに大声で、
「たの~~みま~~しょ~~~~!!!!」
また同じ雲水が、今度は
「ど~~~れ~~~~~」
と言いながら出てきます。
そこですかさず、覚えておいた口上を述べます。
「○○県○○市○○寺徒弟○○!当道場に掛搭いたしたく参りました。お取次ぎをお願いいたします。」
すると今度は、先ほどの怒鳴り声が嘘のようにすました声で、
「当道場は満衆につき、足元の明るいうちに他道場へおまわりください。」
とか言われます。
要は追っ払われるわけです。
実はこれ、お約束です。
「何月何日に掛搭するのでよろしくお願いいたします。」
「承知しました。お待ちしております。」
というやりとりが、ちゃんと事前に交わされています。
にもかかわらず、
「他をあたってくれ」
と言われちゃうんです。
これは僧堂の伝統で、追い払われても諦めない、修行への決意を試すという試験です。
お互いわかった上で、こんなお芝居じみたやりとりをするんですね…。
なので、
「よそへ行け」
と言われても、そのままの姿勢でひたすら居座り続けます。
2日間の庭詰めの始まりです。
庭詰め1日目
不自然な姿勢を崩さずに、何時間も耐え続けます。
腰は痛いし脚はしびれます。
顔を伏せているので何も見えません。
雲水たちがドタドタと動き回る音
怒鳴り声
突然始まる大音量のお経の大合唱
いったい何をやっているのか、音しか聞こえないので恐すぎます。
トイレの場所は最初に教えてもらえて、勝手に行ってOKです。
僕は人の気配がしなくなると、すぐトイレ行ってました( ´∀` )
食事の時間になると、庭詰めをしている場所で、どんぶり一杯の雑炊をいただけます。
夕方になると、「旦過寮(たんがりょう)」という3畳くらいの狭い部屋にあがらせてもらえます。
そこからは、就寝時間(9時ごろ)まで、その部屋でひたすら坐禅をします。
寝るときも、すきま風の吹き込むその部屋で不安な夜を明かします。
ちなみに風呂は入れません。
庭詰め2日目
2日目の朝、3時か4時ごろ、まだ暗い時間に先輩雲水が起こしに来ます。
朝の食事は他の先輩雲水たちと同席して頂きます。
初めて体験する僧堂の食事です。
ものすごいピリピリ感です。
食事が終わると、玄関の掃除をさせられます。
そして、
「お帰り下さい」
と、また追い払われます。
もちろんこれもお約束です。
そう言われてもまた、同じように玄関であの姿勢で居座ります。
あとは1日目と同じ。
ひたすら耐えます。
壁に向かってひたすら坐禅!3日間の旦過詰め
坐禅しかできない3日間
3日目の朝になると、「追い出し」がなくなります。
狭い旦過寮で、そのまま「旦過詰め」が始まります。

今度もシンプルです。
3日間、食事の時間と寝る時間以外はずーっと坐禅をしているだけです。
まともにやっていると、膝が壊れます!
3日間壁に向かって坐禅し続けていると、だんだん意識がもうろうとしてきて、壁のシミが人間の形になって動き出したりします。
旦過詰めを乗り切ると、ようやく一緒に修行する仲間として認められます。
つまり、入門試験合格です。
蛇足ですが、庭詰め・旦過詰めの5日間は、風呂には入れません。顔も洗えず髭も剃れません( ゚Д゚)
庭詰め・旦過詰めを乗り切るポイント
庭詰めは、トイレ休憩で乗り切る
とにかく身体が痛くなるので、
隙をみてトイレに行くようにします。
ちなみに、トイレの事を「東司(とうす)」といいます。
いちいち呼び方が違って面倒ですね…。
頭を伏せて視界が真っ暗なので、周りの様子を知るには聴覚に頼るしかありません。
僧堂の敷地は決して広くはないので、人の気配が消えるとすぐにわかります。
できるだけそういうタイミングをねらって、頻繁にトイレに行きます。
僧堂によっては、突然先輩雲水がやってきて、
「帰れ!」
みたいなことを言って無理やり追い立てることがありますが、これは実は、辛い姿勢から一時開放してくれるための方便です。

姿勢が不自然で身体が辛いですが、僕はその姿勢で寝てました。
顔を伏せているので、寝ててもバレませんでした笑
僕の2日後に来た同期も寝てましたが、こちらはいびきをかいてしまったので、バレてめちゃくちゃ怒られてましたが(;^_^
旦過詰めのコツは、うまく脚を開放させること
いくら修行とはいえ、慣れない坐禅を3日間し続けたら、
膝を壊します。
僕のいた僧堂でも、旦過詰めで無理をしすぎて
半月板損傷
した人や、
エコノミークラス症候群
になってしまった人がいました。
坐禅は禅宗の修行の根幹であるとはいえ、あまりにも生真面目に頑張りすぎると身体を壊してしまいます。
見つからないようにうまく脚を休ませることが必須です。
ポイントは
僧堂内の気配を察知すること
です。
一日のうちで、旦過寮のそばに誰もいなくなる時間が必ずあります。
たとえば、夕方日が暮れてからは皆別の場所で坐禅をしているので、シーンとして旦過寮の近くには誰もいません。
そういうときを狙って、足を伸ばしたり動かしたりして休憩します。
また、雲水衣の中で脚を組むので、外からは見えません。
なので、
ときどき衣の中で軽く脚を崩して休ませます。
もちろん人気のないときにです笑
ごくたま~に旦過寮をのぞきに来て、衣の上から脚を触って確かめに来る人がいるから注意が必要です!
もし万が一バレても、怒られるだけのことです。
右から左へ受け流せば、どうってことありません。
身体の方が大事です。
くそ真面目に頑張りすぎる必要は全くありません。
事前に身体を慣れさせる努力を忘れずに
ただし、掛搭する前に
- 毎日ストレッチをして股関節を柔らかくしておく
- 家で毎日少しの時間でも坐禅をして慣れておく
などの事前準備をしておくことは必須です。
サボタージュするのは、十分な準備をしておいた上でのことです。
まとめ
臨済宗僧堂の入門試験「庭詰め」と「旦過詰め」について解説しました。
乗り切るポイントは、
周りの気配を察知してうまく休憩する
ことです!
あまりにも真面目に取り組みすぎると、身体を壊す危険があるからです。
庭詰めは、
- トイレ休憩をうまく利用する
旦過詰めは
- 衣の中で脚を崩す
- 近くに誰もいないときに脚を伸ばす
特に旦過詰めは、膝を壊す危険が高いので、うまくサボタージュして身体を守る必要があります。
もちろん、事前に身体を慣れさせる努力をして、準備しておくことは大前提です。
- 毎日ストレッチをして股関節を柔らかくしておく
- 家で毎日少しの時間でも坐禅をして慣れておく
以上、最後までお読みくださりありがとうございました!